ボランティア日本語教室にお勧めの教材

(財)日越教育・交流協会 日本語講師
大下 郁子

 最近私が読んだ日本語教材の中から、ボランティア日本語教室で使用するのにお勧めの教材を紹介します。

吉田有美『日本語教師のためのはじめてのコーチング』
(株式会社アスク、2022年)

 「コーチング」とは、対象者(本書では「学習者」)が目標達成や課題の解決に向かって自発的に取り組めるよう支援するコミュニケーションの方法です。ボランティア日本語教室で学習者に教えていて、こんな悩みを抱えたことはありませんか? 「学習者とのコミュニケーションがうまくいっていないかも… 」、「わたしが教えたことは、学習者の役に立っているのかな…」、「なんだか学習者のやる気がないみたい…」。 このような悩みを解決し、学習者の自律学習を支援するのが「コーチング」です。

 本書は、日本語教師で国家資格キャリアコンサルタントの吉田有美先生が、コーチングの手法を用いて日本語学習者の学習を支援する方法について書いた本です。吉田先生は、教師は学習者の可能性を信じ、一緒に前進していくパートナーとして対話することが大切だと述べています。学習者と一緒に考え、話し合う姿勢で学習者を支援することで、学習者は活き活きと能動的に学習に取り組むようになるそうです。本書には、吉田先生が経験された実例がたくさん紹介されているので、皆さんの身近な学習者をイメージしながら読んでいただけると思います。

 本書は3つのPartに分かれています。
 Part1は、「コーチングの基礎知識」です。コーチングの基礎知識がやさしく解説されているので、初めてコーチングを学ぶ人も安心して読み始めることができます。
 Part2は、「日本語教師のためのコーチングレッスン」です。日本語教育の現場に即した具体的な事例がたくさん紹介されており、次の授業ですぐに試してみたくなるような実践的な内容です。
 Part3は、「日本語教師がコーチングを活かすためのQ&A」です。日本語教師からよく寄せられる悩みや相談に、吉田先生がコーチングの立場から答えるQ&A形式のPartです。ボランティア日本語講師の皆さんが抱えていらっしゃるお悩みに対する答えもきっと見つかるはずです。

 この本のタイトルは「日本語教師のための」となっていますが、吉田先生は、ボランティアの方が読むことも視野に入れて書いたそうです。ボランティアの方は1対1で学習者と接し、生活や仕事の困り事を相談される場面も多いですが、コーチングを学ぶことで学習者とより良い関係を築くことに役立つのではないかと感じていたそうです。
 学習者に「教える」だけでなく、学習者を「支える」存在になるために、本書でコーチングを学んでみませんか?

一般財団法人海外産業人材育成協会『ゲンバの日本語 基礎編/応用編 働く外国人のための日本語コミュニケーション』
(スリーエーネットワーク、2021年)

 技能実習生や外国人新入社員などを対象とした日本語教室にお勧めの教材です。初級レベルの日本語を勉強中の学習者でも、就労現場で必要な日本語や、日本企業で働くための文化的知識・能力を短期間で効率的に学習することができます。『基礎編』(レベル1、2)と『応用編』(レベル3)に分かれており、レベルによって使用する語彙や文型が異なりますが、『基礎編』も『応用編』もテーマとなる言語活動は同じです。学習者の日本語レベルに合わせて、『基礎編』か『応用編』のいずれかを選択するとよいと思います。各レベルの使用語彙、文型は『みんなの日本語 初級』に対応しており、レベル1は『みんなの日本語 初級I』第13課終了程度、レベル2は『みんなの日本語 初級I』第25課終了程度、レベル3は『みんなの日本語 初級II』第48課終了程度です。

庵功雄監修『にほんごこれだけ! 1・2』
(ココ出版、2010年/2011年)

 対面でのボランティア日本語会話教室にお勧めの教材です。日本語をゼロから学ぶ学習者でも、おしゃべりを楽しみながら基本文型を身に付けることができるよう工夫されています。『1』と『2』に分かれており、使用文型は『1』より『2』の方が難しく、『2』から動詞の活用が出てきます。文型一覧や50音図などを掲載した「したじき」など、おしゃべりを楽しむためのツールも満載です。

岩田一成編著『日本で生活する外国人のためのいろんな書類の書き方』
(アスク出版、2017年)

 日本で生活する外国人が生活の様々な場面で出くわす書類の書き方を教えるのにお勧めの教材です。「生活」、「役所」、「病院」、「こども」、「引っ越し」の5つの場面から、約40種類のトピックの書類(生教材)が集められています。この教材に収録されている書類は日本で生活するのに必要な書類のほんの一部ですので、学習者が困っている書類を教室に持ち寄ってもらってもよいと思います。

 今年5月にも、当協会が協会ボランティア向けに大下講師を招いて行ったZoom研修の様子を紹介していますので、ぜひご覧ください。下記画像をクリックすると当サイト内のページが開きます。

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